本当の名前は明かしちゃいけないらしいけど……
柚子という呼び名はホントの名前の半分でしかない。
満月(みづき)がいなくなり、遊季もいなくなって、鬱々とした気持ちでいるときに彼女と出会った。彼女はペットショップのショーケースの中で、世の中の不満を一身に背負い込んだような顔をしてふてくされていた。
いつもなら、それだけのこと。
「なんかふてくされた猫がいるな」とそれで終わりのはずだった。なのに、どうしてそうなったのかは覚えていない。ホッキーさんが店員に言ったのか、店員が「抱いてみますか?」と言ったのか。
おいらの腕の中の彼女は、縫いぐるみ状態で微動だにしなかった。こんな猫もいるのか、と思った。長毛の猫は苦手だったから、家に連れて帰るつもりはなかった。にもかかわらず、ホッキーさんに背中を押されて、結局はディスカウントされた彼女を買っていた。
ペットショップで、猫を買ったのは初めてだった。
帰りの車の中で、名前の話になる。
なんの脈絡もなく「柚子」という名前が浮かんだ。うちのコたちは、みんな名字込みで名前をつけている。##柚子。悪くない。
そう言ったら、ホッキーさんから「らしくない」と言われた。どうやら、小さくまとまりすぎてるってことらしい。
その名前を先に言ったのはホッキーさんだったかもしれない。
「柚子胡椒」
当時、うちで柚子胡椒がブームだったこともあるけれど、ピリッとしたとこないと、うちじゃツライぞってことで、その名前になった。
だから、柚子の本当の名前は、柚子胡椒。
ちょ〜っと「胡椒」効きすぎちゃったかもだけどね。